演劇・音楽・古典…「シアターユニット・サラ」を主宰する劇作家、実村文のサイトです。

<真夜中の突撃 2009.2.18>


 今週・来週はカーニバルの季節です。と言っても、リオみたいに大騒ぎはしないんですけど、それでもちょっとお祭り気分です。去年も書きましたが、ドーナツ(なぜ?)を食べたり、仮装パーティをしたりして楽しみます。

 わがレーゲンス音大でも、毎年この週の合唱指揮の授業には、催し物があります。名づけて「指揮者にも衣装」デー。仮装をして指揮するのです。
 コンセプトとしてはじつはまじめで、それぞれ「やっちゃいけないこと」をひとつ考えるのが課題なのです。つまり、こういうことを指揮者にされたらいやだな、と合唱隊が思ってしまうような悪い例を、わざと演じて、普段のときはそうならないよう気をつける、という発想なのです。

 たとえば去年のクラスの出し物は:
・角材をふりまわしてどなりつける、暴力指揮者(男性)
・遅刻して来てしどろもどろの指示を出す、あわて指揮者(男性)
・ミニスカートで男性陣を悩殺する、セクシー指揮者(女性)
・特定のソプラノだけいちゃいちゃとえこひいきする、セクハラ指揮者(男性)
・チューインガムをくちゃくちゃやる、ハードロック指揮者(女性)
…などでした(笑)。
 みんな、演技の稽古なんてしてないんですから、大したものです!それも、ふだんボーイッシュでさっぱりしているイヴォンヌちゃんがセクシー指揮者だったり、エレガントなクローディアさんがハードロック指揮者だったりするので、私は涙が出るほど笑ってしまいました。

 今年の私たちの学年は8年と人数も多く、大したうちあわせもなかったのですが、またまた大盛況でした。定番の暴力指揮者、セクシー指揮者にくわえて、
・小声で涙ぐみながらうつむいてピアノを弾く、はずかしがりや指揮者(女性)
・ずり落ちかけたズボンでなれなれしい口をきく、ラップ指揮者(男性)
 それに、本物の神父さん(ウガンダ人)とシスターさん(韓国人)がいて、彼らは普段はもちろん黒い制服で通っているのですが、神父さんが女装、シスターさんがショッキングブルーのかつらのパンクロッカーのコンビで現れたときは、みんなひっくりかえってしまいました!

 私は何をしたかというと、「幼稚園の先生指揮者」でした(笑)。
 赤と黄と黒のフェルトのカンムリ(帽子)をかぶって、ワニの人形を手にはめて、「みなさんこんにちは〜!今日は、ヘンデルさんのハレルヤを歌います〜。ホントはオトナの歌なんだけど、だいじょうぶ、こわくないよ、がんばろうね!はい、ワニさんといっしょに言ってみよう、ハ・レ・ル・ヤ〜!」と言ったら、まず大笑いされました。
 それから、出だしの「レ」の音と「ラ」の音だけをくりかえし歌わせて、「すごーい!じょうずー!みんな天才だわ!」と驚いて見せたら、また笑い。
 そして、色とりどりの紙のハートを配って、頭の上で「ひだり〜、み〜ぎ〜」とふりながら(紅白歌合戦の「蛍の光」みたいに)、荘厳な「ハレルヤ」を、アホらしいくらいゆっくりなテンポで歌ってもらいました。みんな喜んでやってくれて、ホッとしました。

 じつは前回の授業で、「君は親切すぎる」と叱られたのです。遅刻してきた人たちにいっしょけんめい楽譜を配っていたときのことです。ちゃんと来た人たちはもう歌う体勢に入っているのだから、そちらを優先しなさい、とのことでした。つまり、遅れてきたのに楽譜をもらおうとするのは、ドイツでは甘えとみなされるということです。これには、深く考えさせられました。
 それと、みんなのレベルがとても高くて、初見でかなり複雑な曲もどんどん歌ってしまうので、簡単すぎる曲をバカ丁寧に練習させると、かえってうんざりされてしまいます。それにヒントを得て、「みんなをうんとお子ちゃま扱いする」というのを「やっちゃいけないこと」としてやってみたわけです。

 ひとつ「やっぱりね」と思ったのは、心配そうな顔をして「みんなトイレに行かなくて大丈夫?」と言ったら、大爆笑されたことです。やはりこれは非常にバカっぽく見えるようです。
 私はかねがね、日本の小劇場の開演時に、「上演時間は○分で途中休憩はございません(ここまではいいんですけど)、お手洗いはいまのうちにおすませください」なんて言うのを、「幼稚園じゃあるまいし?」と疑問に思っていたのです。
 たしかに、こちらに来て気がついたことですが、日本人は白人よりトイレがとても近いです(笑)。ボーコーの大きさがちがうんだと思います(笑)。でも、休憩がないって言われたら、お手洗いに行っといたほうがいいかどうか、自分で考えるよね、オトナなら?そんなことないでしょうか?
 私は国際的な劇作家・演出家をめざす第一歩として、開演時の「お手洗いは…」アナウンスは無しにしようと思います(笑)。

 そういえば、レーゲンスブルクの劇場では、上演時間の長さ自体をアナウンスすることもないし、休憩時間がデジタル時計で幕の横に表示されたりもしません。案内の人に聞けば教えてくれるというだけです。(「携帯電話をお切りください」というアナウンスだけは、ときどきあります。)
 幕が下りて、休憩だなと思って外に出て、適当にくつろいで、そろそろかな?と思って席に着く、というのに慣れてしまいました。
 その感覚でふりかえると、「上演時間は○分です」というアナウンスも、休憩時間のデジタル表示も、なんだか少々、親切が過ぎるような気がしてきました。

 本当に、いろんな意味で、たくさん学んだなあと思います。

 東京の天気はその後いかがですか? こちらは今日も雪でした。
 花粉症がはじまっているという話ですが、お父さんもお母さんも大丈夫ですか?
 気をつけておすごしくださいね。
 では、また!