演劇・音楽・古典…「シアターユニット・サラ」を主宰する劇作家、実村文のサイトです。

<真夜中の突撃 2009.2.22>


 電車に小一時間ほど乗って、オーストリア国境の小さい村に来ています。ここで5日間、バロック・オペラの合宿です。
 参加者は、指導員の先生方をのぞいて、アマチュアの方ばかりです。でも、なんという年齢層の広さ! おじいちゃまとお孫さんが並んでヴィオラとチェロを弾いていたりします(坊やのほうがチェロです!)。皆さん質素ないでたちなんですけれども、豊かだなあとため息が出てしまいます。

 オーケストラ(古楽器)と歌(合唱とソロ)と踊り(バロック・ダンス)に分かれて、それぞれのリーダーのもとに4日間稽古して、5日目には上演してしまおうという試みです。全員が出演者、全員が観客です。

 場所は、昔のお屋敷というか、小さなお城といってもいい、かわいらしい館を使わせていただいています。去年の秋の修道院合宿もよかったけれど、今回は暖房完備なのがありがたいです!(笑)

 ところで、このお城には、金髪の「眠りわらし」がたくさんいるようです(笑)。魔法をかけられたみたいに、着いた日から眠くて眠くてたまりません。知らない人たち(二、三度お会いした方々もいますが)のなかで、ドイツ語しかしゃべれないというのに、なんだかとってもくつろいでしまっているのはなぜ?

 たとえば……
 よくお食事時に同じテーブルになる、とても感じのよいご夫婦がいます。(たぶんお父さんお母さんと同じくらいのお年?)お二人ともいつもにこにこしています。
 今朝はご主人が、バナナとりんごをひとつずつとってきて、きれいに半分に切って、半分を黙って奥さんの前に置いて、残りを食べておられました。それに気がついた奥さんと彼の会話。
「あら、これ私のなの?」
「そうだよ」
「まあ、ありがとう!」
 素敵でしょ?(笑)
 さっきのお昼には、ご主人が真剣な面持ちで、ビール瓶を両手で包んで暖めておられました。お二人でビールを一本ずつとったものの、冷たすぎるというのです。しかも暖めているのは奥さんの分なのです。
 あまりに一生懸命暖めておられるので、「私がやりましょう、お手が冷えると楽器が弾けないから(ご主人はガンバ(チェロに似た楽器)で参加)、私は歌うだけだから大丈夫です」と言って代わりました。そしたら奥さんが笑い出して、「私がゆっくり飲むからいいんですよ」と仰って、ビール事件(?)は一件落着になりました(笑)。